公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団 公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団

国際学生交流プログラム助成 グローバルNow!

2023年03月31日 アドバンスト

ドイツ・アーヘン工科大学滞在記

ドイツのアーヘン工科大学で約2か月半研究活動を行っております、東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系3年(4月から4年)の大友志穂です。

留学期間も半分ほど経過したところで、これまでの研究活動やこちらでの生活について報告させていただきます。

 

「学生の街」アーヘンとラボの様子

アーヘンはドイツの中で最も西に位置している都市であり、オランダとベルギーとの国境が近いのも特徴です。アーヘンは人口約25万人の小さな都市ですが、そのうち約5万人をアーヘン工科大学の学生が占めています。

アーヘン市内は、世界遺産であるアーヘン大聖堂や市庁舎を中心に市街地が広がっています。全体的に石畳が多く、古くからの建造物やデザインが残った・生かされたままなので、街全体はヨーロッパ特有の、歴史を感じられる雰囲気になっています。

 

アーヘン工科大学は門がなく、明確な敷地がないため、アーヘン市内に建物として散らばっており、街を散策しながら、ここも大学の施設だったのか、と驚くこともあります。私が所属しているOkudaラボは、アーヘン市内の中でも西北部に位置する建物に入っており、2つの学生室と2つの実験室を利用しています。

  • アーヘン大聖堂・この日は珍しく晴れていました アーヘン大聖堂・この日は珍しく晴れていました
  • Okuda先生と Okuda先生と

ラボでは、メンターのOkumuraさんについていただき、「チタン錯体を用いた小分子の活性化」について研究を行っております。具体的には、glove boxという、外の空気と遮断された空間の中で作業を行っており、溶媒を加えて固体を溶かし、ろ過・冷却などを通して結晶を得る作業を行っています。詳しい内容は、最終報告書で述べたいと思っています。

 

ラボは、マスター学生1人、PhD生3人、ポスドク1人と先生方で構成されており、小規模でアットホームな環境です。

私のラボでは、一人ひとりが自分の研究に集中して取り組んでいますが、毎朝のコーヒーブレイクはラボのみんなで集まって、コーヒーを片手に30分ほど雑談をするのが毎日の楽しみです。

昼食はそれぞれ、自分の時間のペースで食べることが多いので、私は自分で朝作ったお弁当を持参するか、現地の友人と近くのレストランで外食をしています。

  • グローブボックスで作業をしている様子 グローブボックスで作業をしている様子
  • 反応が終わったか、生成物ができたかを確認するためにNMRを頻繁に使う 反応が終わったか、生成物ができたかを確認するためにNMRを頻繁に使う

現地での生活・過ごし方

ラボ後の夕飯は、自炊をするか、友人とアーヘン市内で外食をするかのどちらかです。新しい分野と研究内容だったため、知識や経験不足を感じることが多く、帰宅してからも勉強の時間を取ったりすることもあります。

 

交換留学のように授業を受けないため、学部生や同期の友人ができないのではないかと不安でしたが、アーヘン工科大学のBuddyプログラムを利用して学生と出会ったり、友人の友人を紹介してもらったり、留学生向けのイベントに参加して友人を作ったりと、逆に、様々な場所で友人を作ることができ、彼らと食事をしたり、遊びに行ったりするのがとても楽しく、日本に帰国してからも連絡を取り合い、また再会できるのを楽しみにしています。

 

週末は基本的に旅行をしています。私自身旅行がとても好きなのですが、アーヘンが旅行に最適な場所に位置しているため、電車などで予算を安く済ませることができます。これまで、アーヘンの近くに位置する、ベルギー・オランダ・フランス・ルクセンブルクを訪れた他、ドイツ国内でも、ケルン・デュッセルドルフ・ボン・ブレーメンなども訪れました。ヨーロッパの国は色々な面で似ていることが多いと思いますが、実際に足を踏み入れることで、似ていながらも、それぞれの国や地域の特徴を発見することができました。

 

また旅行の目的には、ヨーロッパに住んでいる友人たちと再会する、ということもあり、以前自分が中国に住んでいた際のドイツ人やスペイン人の友人と10年ぶりに再会することができたり、去年の夏にフランスに留学した際に仲良くなった友達と再会できたりし、とても嬉しかったです。更に、NAKATANI RIESでの同期とも再会・旅行をすることができ、人とのつながりを続けていくことの大切さと楽しさを感じることができました。

  • ケルンのカーニバルにメンターさんとその友人と参加した・毎年2月に周辺地域で開催されつ大規模なカーニバルでコロナ禍ぶりの開催のため街中がお祭り状態に ケルンのカーニバルにメンターさんとその友人と参加した・毎年2月に周辺地域で開催されつ大規模なカーニバルでコロナ禍ぶりの開催のため街中がお祭り状態に
  • 友人とパリへ 友人とパリへ

気付きや学び

まずは、1か月半弱の研究活動を通して、特にこの分野においては、「求めている結果が得られない場合が多い」ということを強く感じました。

有機合成においては、「『きれいな』生成物を得ること」が大きな目標であり、それを得るために、何回も再結晶を繰り返したり、違う溶媒で試してみたり、といった作業を繰り返すそうです。経験だけではなく、運も大きく絡んでくるため、成功するそして様々な紆余曲折を経てやっと一つの化合物が得られるのだと身をもって感じました。

 

私が現在合成を試みている錯体のリガンド(配位子)が何回やってもうまくいかず、落ち込んでしまったときに、同じラボのマスターの学生に「うまくいかないことがほとんど。私も10~15回くらい同じ実験をしたことがある。経験を積んでいけば、コツもつかんでくる、だけど沢山失敗するのは普通のことだよ。」と教えてもらい、実験の難しさ、そしてその困難に立ち向かう楽しさを改めて考え直すことができました。現在もまだ実験はうまくいっていませんが、考えられる理由を洗い出したり、違う方法で試したりして、めげずに挑戦したいと思っています。

 

もう一つ、感じたのは、研究者にはそれぞれのスタイルや考えがある、ということです。当たり前のことかもしれませんが、この留学中身をもって体感できました。

私は、研究留学の3週目から、メンターさんが学会参加のため、1か月ほど日本に帰国したため、メンターさんなしでの実験期間がありました。この期間中、メンターさん以外のほかのラボのメンバーにアドバイスや意見を聞くことも多く、本来であれば、メンターさんという一人の研究者を中心に見ていたのが、様々なラボメンバーの考えを学ぶことができ、とても面白いなと感じました。

 

実験の手順について一度複数のラボメンバーに相談した際に、あるメンバーはAの方法がいい、と言っていましたが、他の2人はAはやるべきではない、Bがいいと、真向から反対していました。更には、ドイツのラボに身を置いているにも関わらず、Okudaラボは様々な国からの学生がいるため、彼らの多様な研究環境や経験についても聞くことができるのもとても貴重です。

 

一人ひとりがそれぞれの色々な研究や実験を通して特有な経験と知識があるのだなと改めて感じ、このような環境に自分の身を置けていることに感謝しています。色々な人の様々な考えを沢山吸収して、自分の知識にするとともに、自分の研究に合うスタイルや考えは何なのか、ということを改めて考える機会にしたいです。

 

最後に

最後となりましたが、この場をお借りして、今回の留学を可能にしてくださった中谷医工計測技術振興財団、受け入れを認めてくださったアーヘン工科大学のProf. Dr. Jun Okuda、メンターのOkumuraさん、Okuda研究室の皆様に感謝申し上げます。そして留学を後押ししてくださった東京工業大学の大友順一郎先生、家族にも大変感謝しております。自分が改めて色々な人のおかげでのびのびと研究ができていることに感謝し、残りの期間も悔いのないよう、全力で駆け抜けたいと思っています。長くなってしまいましたが、以上で中間報告とさせていただきます。

 

東京工業大学 環境・社会理工学院融合理工学系

大友志穂