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国際学生交流プログラム助成 グローバルNow!
2023年05月17日 アドバンスト
米国・ハーバード大学滞在記
米国Massachusetts州Harvard大学Kim研究室滞在記
東京大学 工学部 電子情報工学科4年の、鷲見直と申します。
2023年3月中旬から6月上旬にかけて、アメリカ合衆国Harvard大学のDepartment of Physicsに所属し、Philip Kim先生の研究室にて、研究させて頂いております。中谷医工計測技術振興財団にご支援いただき実現したアドバンストプログラムの留学期間も、気づけば半分が経過したため、現在までの研究活動や生活について、ご報告させて頂きます。
研究概観
ラボでは、PhD課程6年目のZeyuとポスドク1年目のAbhishekの二人のメンターについてもらい、「Twisted Bilayer Graphen(TBG, ねじれ二層グラフェン)」に関する研究を中心にして、3つに大別される研究を行っています。1つは実験系、1つは計測系の構築、1つは理論系の計算で、これらの研究は個別でも価値がある上で、もし全てを実現することが出来れば、その分野の確かな前進に繋がります。
TBG、ねじれ二層グラフェンとは、グラファイトから剥離した単層の炭素原子シートのグラフェンを2枚用意し、狙いの相対的なねじれ角を持つように人工的に積層して作製します。自然界に存在する通常の積層構造から得られるものとは異なる物性、例えば超伝導などが観測されており、ねじれ角を層状物質のパラメータとして変化させて活用させるこのtwistronicsは、実験と理論の両面から研究されています。TBGの研究では、温度10mK未満に冷やすために、希釈冷凍機などの大規模設備を使用することもあり、複数人で協力して研究していく形式が本研究室では一般的です。デバイスの作製はZeyuが詳しく、希釈冷凍機を用いた計測系はAbhishekに経験値があります。現在取り組んでいる3つの研究のいずれも、メンターや他のチームメンバーと協力しながら、裁量をもって独立して作業する部分が多くを占め、共同研究しているという形式です。
- 希釈冷凍機のプローブ
- 希釈冷凍機の内部
このTBGを含め、研究室が得意としている分野のキーワードは、Quantum Physics, Condensed Matter, Topological Matter, Transition-metal dichalcogenidesなどが挙げられ、非常に競争の激しい分野だと感じています。研究内容の詳細は最終報告書に譲り、ここからは研究生活についてご報告させて頂きます。
研究環境(ハード面)
まず、研究室のハード的な環境に関して申し上げます。機材が充実しているという意味でも、気が行き届いているという意味でも、驚くほど心地よく、日々の感涙ポイントです。Kim Labのオフィス(居室)と実験室は、Nanoengineering系の実験系研究室が集まっているLISE(Laboratory of Integrated Science and Engineering)ビルディングという比較的新しいビルにあります。
主に4階全体と、3~6階の各所にオフィスや共同研究を行う研究室と共有する実験設備が点在していて、Principal Investigator(PI)のPhilipとPhD生は4階に、ポスドクは3階にオフィスがあります。私のデスクはAbhishekの真後ろの席で、いつでもコミュニケーションが取れるだけでなく、zoomミーティングの内容を聞くことや作業内容をシェアしてくれることで、ポスドクの研究スタイルを常に感じることが出来、刺激を受けます。
4階のオフィスと実験スペースの間に、ホワイトボード、ガラス窓、ソファに囲まれたキッチンスペースがあります(2020年の亮太さん、2022年の光悦さんの滞在記でもメンションされていました。https://www.nakatani-foundation.jp/global/harvard_yanagisawa/ . https://www.nakatani-foundation.jp/global/harvard_2021/)。
キッチンスペースの中央には、シンク、珈琲マシン、給湯器、冷蔵庫、お菓子、レンジ、戸棚と、研究内容をシェアできる大きなPCがあり、基本的に朝9時から夜22時まで誰かがそのスペースで休息や、議論しています。他の研究室の人もよく遊びに来る場所で、私は休憩する体で色んな人の議論に入り込んでいます。珈琲は複数の本格的な豆からインスタントまで、お茶も世界中のものが、お菓子も頻繁に補充されていて、マニア垂涎の品もありました。お抹茶が大好きな私は、茶筅まであることに驚きました。世界中の研究者とPhilipがコミュニケーションを取っているからこそだと感じました。
実験スペースとしては、この4階で、グラフェン等の「剥離」や、デバイスの「積層」など、研究室に固有の作業を行います。これに加えて、地下1階の一帯を占める、大学共有の、The Center of Nanoscale System(CNS)と呼ばれるクリーンルームや、地下2階点在する計測機器部屋などで、AFM、SEM、リソグラフィ、蒸着など大規模な機器などを使ったデバイス作製や計測を行います。CNSは、50m×100mほどの面積で相当大きく、夜間は有毒物の使用や単独での使用が認められていませんが、24時間稼働しています。クリーンルームはこれに加えて、少し離れた建物群にバイオ系やイメージング系など用途の異なる二つの大規模なクリーンルームがあります。CNSに関してはまた後で詳しくご説明いたします。
研究環境(ソフト面)
次に、ソフト的な環境についてお話します。Kim Labに所属している研究者は、PhD生が13名、ポスドクが6名で、そこにハーバードや他大学の学部生やPhD生などの研究生が数名来ているという規模感です。研究室のイベントとしては、毎週木、金どちらかのグループミーティングでPhD生以上が2時間の研究発表(発表中に質問やコメントを飛ばしていいインタラクション形式です)を行う他、隔週のサブグループミーティングではテーマごとのグループ(8名程度)に分かれて個々人が進捗を報告します。どちらもPhilipは参加していて、積極的に議論や補足に入ります。グループミーティング後には、前述のキッチンスペースで、ご飯担当の人が頼んでくれたケータリングがあるので(スポンサーはPhilipです)、皆でシェアしながら進捗もシェアします。ボストン中の美味しい料理が来ます。これに加えてPIのPhilipが居室に、研究チーム(3~4人)毎に呼ぶミーティングが、不定期ですがかなり頻繁にあります。
Philipは、グループミーティングやその他のセミナーでも実験機器のセットアップから議論の何から何に至るまで率先してサポーティブであり、研究室メンバーから厚い信頼をよせられています。どのようなテーマに関しても黒板に書き込みながら鋭く洞察し、温かくサポートして下さるそのスタイルだからこそ、皆が安心して研究に打ち込むことが出来ているのだと感じました。例えば、私自身、デバイス作製の経験が少ない中でクリーンルームは利用しない可能性が高いという風にお話を頂いていたのですが、1対1ミーティングでの議論に丁寧に付き合って下さったことに加えて、研究の進捗とメンターの後押しを見守って、CNSの利用をアクセプトして下さった柔軟さにも深く感謝しております。
研究室外の交流
次に、他研究室の研究者との交流についてお話します。ここで少しハード的な面も絡むのですが、物理学科の建物群は隣接しているだけでも4つあり、ユニークな点は、それらが空中回廊や階段、地下通路などで接続していて、入り組んでいる点です。LISEビルディング以外の建物には、例えば物理系の中でも理論系や分野の異なる実験系の研究室があります。毎日のように、アメリカや世界中のインパクトのある研究者のセミナーがあり、そのセミナーの開催場所を求め、建物群を探し回る必要があります。昼食時間も重なる場合には学科からランチボックスや飲み物も配られて、実験の方法や工夫など論文にはあまり載らない部分に関しても相談できます。皆、かなり積極的に自分の研究の行き詰っている点をオープンにしたり、相手の研究の核心的な部分に突っ込むので、初めは驚きました。普段、競合している研究者とこのように親密にコミュニケーションを取ることが出来る場があるのは、緊張感もありながら、モチベーションをかきたてられる機会だと感じ、自分は環境として合っていると感じました。
その他にも、様々なランチセッションやピザパーティなどが毎週のように開かれていて、物理系の研究者と話しながら昼夕食を調達する機会に恵まれています。一方で、このように、共同研究や情報共有を行いやすい場だからこそ、情報開示をする際には注意やバランスを取る必要があり、Abhishekはそのような点に関しても丁寧に率直に話してくれるので勉強になります。また大学構内にバーがあるだけでなく、ボストンには100を下らない数のブルワリーがあると言われていて、他の研究室の研究者と毎週のように飲みにいくと、研究内容やキャリア観に加えて、この研究者は共同研究者として信頼できるか、などクリティカルな話も出てくるので、有意義に感じています。私はあまり飲みに行く経験がなかったのですが、ジョージア工科大学の先輩方や同輩が、様々なブルワリーに連れて行ってくれた経験が活きているなと感じ、感慨深く思います。
研究の日常
実験的な作業やその理論的背景は、基本的にZeyuに教えてもらっています。Zeyuは、真摯で実直でとても優しく、物理の理論的理解が深く、計測機器の理解も豊富で、こんなに素敵なメンターがいるのか、と日々感じています。実験に関係すること以外にも、社会問題やお互いのこれまで、これからのキャリア、家族や友人の話、など幅広いテーマで、丁寧に議論しながら共感しあうことが出来、深く信頼できます。毎週土曜午前は、Zeyuに誘ってもらって、Harvard Physicsに関連するメンバーが15~20名程集まって、グラウンドでサッカーをするのですが、Zeyuとはプレースタイルが似ていることもあってバチバチしています。
もう一人のメンターのAbhishekは、インドの大学を出て、Big Techのコペンハーゲンの基礎研究所でジョセフソン接合を研究した上でKim Labに来た異色の経歴の持ち主で、知識と経験値が深く幅広いだけでなく、ユーモアやジョークも豊かで、私をよくからかってきます。5月の週末にラボメンで百合の公園へピクニックに行った際には、「 Abhishek is making sandwiches for everyone? Such a great guy」と前日に別のラボメンに言われて、「 You wouldn’t want to eat a sandwich I make. But I agree with the great guy part.」と返していました。グループミーティングは、異なるサブグループのテーマだと守備範囲外で理解が不足することが多いとされていますが、Abhishekはどんなテーマでも切り込むことができ、とても心強く、憧れです。
- 毎週土曜日のサッカー後のZeyuとの一枚
- 芝生でのピザパーティ後のAbhishekとの一枚
普段の私の研究的な日常は、7時頃に起床し、家事をしながら朝昼夕食を作り、9~10時にバスや電車で15 分程かけて登研して、始まります。眠気を免れない時でも、ボストンの5月は20℃程度とよく晴れていて、バス停に向かうまでがとても気持ちがいいです。午前は人が少ないので機器の予約が空いていることも多く、他のメンバーと重なりやすい「積層」などのデバイス作製を行います。
お昼時は研究室メンバーと雑談する息抜き時間です。トークテーマは、お薦めのNetflixドラマから、最新の研究まで幅広いです。私は途中でシエスタやおやつ、夕食を挟みながら、夜22時頃(Zeyuと遅くまで実験する場合は翌2時頃)まで実験室に居ます。家に帰って論文を読むことや基礎的な勉強をして就寝し、深夜に起きて東大の講義を受けながら課題を終わらせて、また寝るというルーティンです。サッカーのある土日の午前以外は研究室にいるのですが、Zeyuを筆頭におそらくPhD生の多くが似たような生活だと思います。
Kim Labのラボメンは機知に富んでいて優しく温かい人ばかりで、なぜこんなに雰囲気がいいんだ、と日々心震わされています。皆の研究やそのスタイルに関して述べるには紙面が足りないのですが、個人的に驚いた日常の話をすると、全員が何らかの運動や趣味に情熱的に打ち込んでいるということです。バンド、スイーツづくり、陸上、水泳、マラソン、ハイキング、サッカー、バレエなど多様で、ケーキ作りが得意なThaoさん曰く「何らかの趣味が見つけないとここでのPhDはやっていけないよ」とのことでした。
私の趣味は何かと聞かれて考えると、私はサッカーとバスケに加えて、料理が大好きです。疲れたときは、アメリカのアイディア豊かなお手軽クッキング商品をいろいろと試すことや、お肉を焼いています。和食も好きなのですが、友人に教わった時短サンドイッチや、先生に教わったハーブを使ったステーキ、アジア料理など、PhD生としてアメリカに滞在するときに向けて、日本食材がなくても日常的に健康的に無理せず楽しめるレシピを実践しています。ラボメンの中でも、イタリア系アメリカ人のJamesの食への情熱は凄まじく、美味しいお店や料理に必要な要素に関して談義しています。(Jamesのお祖母様のシシリア風トマトパスタが絶品らしく、レシピ交換などをしています。)プエルトルコ人のAndrésも、南米系の料理が美味しいお店に誘って相談にのってくれたり、実験中には必ず声をかけてくれるなど面倒を見てくれます。私が「ラボメン全員が何かしらでサポートしてくれたり、温かく声をかけてくれるので、凄く居心地がいいんだ」などとAbhishekにこぼすと、「周りの人が全員niceに感じたら、それは自分がoppositeなんだ、という諺があるよ」と言われ、胃が痛くなりました。
- Andrésとブラジル料理の海鮮シチューMoquecaを頂いたシーン
- フランクフルトとなんちゃってクロワッサン(焼成前)
- フランクフルトとクロワッサン(焼成後)
- スペアリブ(アメリカのスペアリブ美味しいです)ともち米を使った粉蒸肉
買い物は、ボストンは「お肉以外の物価が、スイスや世界のどこと比べても50%程度高い」(同じく物価の高い北欧やヨーロッパ出身のラボメンバー談)と言われるほどで、安い地元のスーパー(我らがMarket Basket)でもリンゴ一個で$2.5、ブルーベリー1パック$4ほどするので、果物や野菜の購入に躊躇してしまいます。
ただ、4月に入ってから、金土曜にHaymarketという港近くで開かれる朝市で、ブルーベリー$1.5ほどで購入できるということを学んでからは、土曜のサッカー後に自転車をこいで山のように果物と野菜を担いで帰っています。
このように書いていると、折角ボストンにアメリカにいるのに、その文化や幅広い人と交流する機会を逸しているのではないか、というような感覚もあるかもしれません。しかし個人的には、旅行やデイトリップは、夏のジョージア工科大学でのプログラムで友人や先輩方に恵まれてかなり幅広く経験できた中で、個人的にはやるべきことを果たせなかったと感じており、ハーバードでは、中谷医工計測技術振興財団、所属研究室、Kim Lab、家族や友人の多大なサポートの中で、この環境に身を置かせて貰っているという感謝と責任と重圧を、これまでの日々を経てより強く重く感じています。そして、ボストンには必ず研究者としてまたやってくるんだ、という覚悟を持って、研究に集中しようとしています。
このように研究に出来る範囲で集中する中でも、ハーバード医学部の花井先生や井手先生、Mayor Clinicの樺先生、佐藤先生、北潟谷先生、など医学系工学系の研究者や、ボストン日本人研究者会にて幅広い分野の研究者の方々、ボストンの音楽家、芸術家の方々、スタートアップや日系企業の研究所の方々、にお会いすることが叶い、大変充実しております。
研究設備
個人的に、CNSのクリーンルームは垂涎でした。ハーバードのクリーンルームは、このクリーンルームに加えて大学中のクリーンルームの設備を集めたというような形式で、最先端のナノファブリケーションを行う上で必要とされる機能を持つ機械は全てあるというような形でした。
普段、所属する東京大学の研究室のクリーンルームは機械も大変充実していてとても整理されていて自慢なのですが、同じキャンパス内でも武田先端知ビルや他研究室のクリーンルームにお邪魔して機械を拝見することはなかなか叶わないので、夢が叶ったように感じていました。更に驚いたのは、総勢30名以上のクリーンルーム専属の技術者がおり、毎日それぞれの機械の整備と、それらの機械を使用するためのトレーニング講座を開いていて、このトレーニング講座を終えた後も、いつでも相談にのって下さるということでした。このように恵まれた施設を利用するためには、入室料が1時間$30(1日最大$90)で、それに加えて機械の利用料が例えばELIONIX社のE-beam lithographyのための機械を使うとなると1時間あたり$60かかります。これは、ハーバード内部向けの料金で、例えば企業の研究者が使用する場合、その6倍程度の利用料です。
使用料は外部公開されているので、参考までに添付いたします。
https://cns1.rc.fas.harvard.edu/documents/2018/06/cns-consolidated-rate-sheet.pdf
自分がPIだとしたら20名以上の所属研究者のCNSの利用料を確保する必要があるのか、と感じながら、入室する際には何回も作業を確認したうえで、テクニシャンやPIを始め様々な関係者への感謝の気持ちを持って、利用させて頂いています。
また、これと同時に、東大の所属研究室で、クリーンルームや計測機器を自由に使わせて頂き、機械を目の前にしながら自由に色々考えて試行錯誤できる環境は恵まれているのだ、と改めて感じました。そして今自分がハーバードのクリーンルームで大きなミスや事故を起こさずに済んでいるのは、所属する研究室で先輩方や同輩に、丁寧に面倒を見てきて頂いたからなのだと感謝を絶え間なく感じています。
研究留学を経ての気づきと感謝
ここでは、研究室で直接的に関わるメンターからのサポートはこれまで述べてきたように、勿論のこと、その他のサポートにとても助けられているということをお話させて頂きます。
まず第一に、中谷医工計測技術振興財団の関係者の皆様に感謝を申し上げます。有機半導体とデバイスの研究を行っているとはいえ、量子系デバイスやcondesed matter physicsの経験のない私が、本分野で世界で最先端の研究を行うKim Labに3か月もの間滞在し多くのサポートを受けることが出来ているのは、これまで財団の皆様方がその繋がりと信頼を育てて来てくださったこと、このアメリカでの生活と研究に不安を感じないために多くの支援を頂いているからこそです。その期待にこたえるべく、ハーバードでの残りの日々もその後の将来も、多くの研究や社会位に貢献できる研究者になれるように邁進してまいります。
第二に、東大の所属研究室の横田先生と李先生には、毎週のようにWeekly Meetingをzoomで開いて頂いております。最初、議論の内容や実験機器があまりに高度に感じ、研究室に打ち解けられるから不安だった時には「とりあえずメンターのいるところにくっついていってみよう」「この部分は知らなくておかしくないから、こうやって勉強しよう」などとアドバイスを頂き、PCやPCBMなど有機材料の条件を調整しながら積層構造を作る際の粘着性をコントロールする際などにはアイディアを頂き、理論的計算で苦しんでいる際には計算の整理にも付き合って頂くなど、多大なサポートを頂いております。また、染谷先生、多川さん、池ケ谷さん、山﨑さん、Sukmanさん、加藤さん、Theoさん、奥田さん、同輩を始め研究室の皆様には、毎週のGroup Meetingで拙い質問をしても温かく受け入れて頂ていることに加えて、渡航直前の修論や、渡航前後の準備段階から大変お世話になっております。
次に、ハーバード医学部所属の花井先生と井手先生には、研究開始前と開始してからも、対面やzoomで個人的なミーティングを開いていただき、研究室で行き詰ったときの心構えや対策などに加えて、生活のための知恵など幅広い面でお世話になっております。「議論に入らなければ存在しないのと同じになってしまう」「議論が分からなかった時には自分なりに整理して後で聞きに行く」「実験をしながら、理論を勉強しなきゃいけない、アイディアでも存在感を出せるように」「(自らの研究内容を守秘することに関して)どれだけ優しい人だと感じてもノーガードで居てはならず何かあったときの準備をしなければならない」など、どのような困難を先生方がどのように乗り越えてきたのか、というお話とともに伺い、苦しいときの指針となっております。
更に、4月にU.S. News Best Hospitalsの多くの部門で一位を取っているMayor Clinicを訪れた際には、医工学系に興味があるならと招待してくれた友人に加え、樺先生、佐藤先生、北潟谷先生を始め医・工学系の研究者の方々には、医学と工学の融合分野に関する医学的視点からのアドバイスを頂くなど、大変お世話になり、またその後も継続的にサポートを頂いております。
また、大学の友人や、Nakatani RIESの皆様にも支えて頂いております。Aachen、Bremen、Davis、Atlanta、京都、大阪、東京などを飛び回りながら、自分のやりたいことに打ち込んでいるメンバー皆が近況を交換してくれるからこそ、私も孤独を感じることがないだけでなく、いつも隣で頑張っているように心強く感じています。いつでも送り出してくれて帰ったら温かく受け入れて遅れた分を一緒に取り戻してくれる所属研究室の同輩、卒論研究とハーバードへの留学への学問的準備が重なって苦しいときに勇気づけてくれたメンバーや、渡米後には研究分野が重なっていることもあり、毎週のように、計測機器やその背景、関連テーマなどに関して互いの理解を壁打ちしあう相手になって頂いたメンバー、渡航前の疑問を氷塊させて下さり心配することなく楽しんでくればいいよと送り出してくれた亮太さんと光悦さん、など多くの友人や先輩のサポートを頂いております。
これらのサポートへの感謝は、研究留学中にリアルタイムに方向できる機会である中間報告をするうえで欠かしたくないものであり、改めて深く御礼申し上げます。
結び
研究者としての道、を考えて行くうえで、ボストンという場所柄もあり、これまでの道のりを顧みる機会が増えているなと感じています。
私は幼い頃、4歳から1年に渡り、ボストンに滞在していたのですが、物心ついたばかりの自分にとって印象的だったのは、小学校で多様なルーツや文化的背景を持つ友人らとのインタラクションにわくわくしていたこと、-20℃ほどの極寒で雪が積もった旧市街の赤煉瓦の美しさ、そして人々の温かさです。当時、「ハーバード大学の銅像の靴を触ると、もう一度この場所に戻ってこれる(=ハーバード大学に入学できる)」と言われて、「撫でたから戻ってこられるかな」と4歳なりの幼心に思い込んでいたですが、高校生になった頃には、「自分は日本からアメリカに飛び立ってハーバードを受験するほどの強みも勇気も頭もないのだ」と、気づかされたように思っていました、凡人なのだからと。ですが、大学入学以来、様々な地域の様々な方にお世話になり、「やりたいなって思ったことを大事にしていい」「それが本当にやりたいことかどうかは、やってみて確認したらいい」というように夢を探し続けられる考え方になりました。そして中谷医工計測技術振興財団のNakatani RIESとARIPが気づかせてくれたのは、「研究者というのは多様な要素が求められながら何が功を奏するか分からない仕事であり、向いてるかもしれないし向いてないかもしれない。でも取りあえずやってみればいいんだ」ということです。このすなわち「チャレンジする」ということはただでさえ難しく、それを日本からアメリカに渡って行うことは、中谷医工計測技術振興財団、Kim Labと染谷横田李研究室の皆様、ハーバードと東大の事務や技術者の皆様、家族、友人など多くの人に多くの助けを受けながら、やっと実現しております。そして、この頂いたご恩や期待は決して、決して返すことができないほど、大きく深く重いものです。にも関わらず、お返しするどころか、まだまだご迷惑をおかけしてしまうことの方が多いかと思います。そんな若輩者の私ですが、そのご恩やご期待、頂いた全てのご支援にこたえることが出来るように、日々歩みを止めず邁進してまいります。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。